ソフトロボットを動かす空気圧システムの主要コンポーネントとその役割
ソフトロボットの駆動方法として、空気圧システムは広く用いられています。その柔らかく、軽量で、高出力密度といった特性は、ソフトロボットの利点を最大限に引き出す上で重要な役割を果たします。これからソフトロボットの研究開発を始めるにあたり、空気圧システムがどのような要素で構成され、それぞれの要素がどのような役割を担っているのかを理解することは、適切なシステムの設計やトラブルシューティングを行う上で不可欠です。
この記事では、ソフトロボットを駆動する空気圧システムを構成する主要なコンポーネントとその役割について、基礎から解説します。
空気圧システムの全体像
空気圧システムは、一般的に以下の流れで構成されます。
- 圧力源: 圧縮空気を作り出す源です。
- 圧力調整: 供給される空気圧をシステムが必要とする圧力に調整します。
- 流路制御: 圧縮空気をアクチュエータへ送ったり止めたり、流れる方向を切り替えたりします。
- 配管: 圧縮空気を各コンポーネント間やアクチュエータへ伝達する経路です。
- アクチュエータ: 圧縮空気のエネルギーを受けて動作し、ロボットを動かす部分です。
これらのコンポーネントが適切に接続され、制御されることで、ソフトロボットの意図した動作が実現されます。
主要なコンポーネント解説
1. 圧力源 (Pressure Source)
空気圧システムにおける圧力源は、空気を圧縮し、システム全体に供給する役割を担います。
- コンプレッサー: 電気モーターなどで空気を圧縮し、高圧の空気を作り出します。研究室レベルでは、比較的コンパクトなオイルフリーのコンプレッサーがよく利用されます。タンク付きのモデルは、一時的に大量の空気を供給できるため、安定した圧力での動作に有利です。
- 空気ボンベ: あらかじめ圧縮された空気が充填されたボンベです。可搬性に優れますが、容量に限りがあります。
- 加圧された容器(研究用途など): 実験システムの一部として、手動ポンプなどで空気を加圧して用いる場合もあります。
圧力源の選定は、必要な空気圧、流量、連続運転時間などを考慮して行われます。
2. 圧力調整弁 (Regulator)
コンプレッサーから供給される空気圧は、アクチュエータの動作に必要な圧力よりも高い場合が多く、また変動する可能性もあります。圧力調整弁(レギュレーター)は、供給圧力を所望の一定圧力に調整するために使用されます。
- 役割: システム downstream(下流側)の圧力を設定値に維持します。これにより、アクチュエータが設計通りの力や変位を発揮できるようになります。
- 種類: 設定圧力を手動で調整するタイプが一般的です。複数のアクチュエータを異なる圧力で駆動したい場合は、アクチュエータごとにレギュレーターを設置することがあります。
適切な圧力管理は、ソフトロボットの性能や安全性を確保するために非常に重要です。
3. 方向制御弁 (Directional Control Valve)
方向制御弁(単にバルブと呼ばれることが多い)は、圧縮空気の流れの方向を切り替えたり、供給・排気を制御したりする役割を担います。ソフトロボットの多くは、このバルブを電気信号で制御することで、アクチュエータのON/OFFや動きを制御します。
- 役割: アクチュエータに空気を供給するか、排気するか、あるいはその両方を行うかを制御します。
- 種類: バルブは、ポート数(空気の通り道の数)と位置数(切り替え可能な状態の数)で表されます。
- 2方弁: ポートが2つ(入口と出口)、位置が2つ(開/閉)。空気の供給/停止に用いられます。
- 3方弁: ポートが3つ(入口、アクチュエータ、排気)、位置が2つ。アクチュエータへの供給と、アクチュエータ内の空気の排気を切り替えるのに用いられます。片側だけを駆動する単動式アクチュエータに使用されます。
- 5方弁: ポートが5つ(入口1、入口2、アクチュエータポート2つ、排気ポート2つ)、位置が2つまたは3つ。両側を駆動する複動式アクチュエータ(例: 空気圧シリンダーなど)や、複数のポートを持つソフトアクチュエータの複雑な動作制御に用いられます。
ソフトロボットでは、小型で応答性の高い電磁弁(ソレノイドバルブ)がよく使用されます。マイコンなどから電気信号を送ることでバルブを切り替え、空気の流れを制御します。
4. 配管 (Tubing) と継手 (Fittings)
配管は、圧縮空気をシステム内の各コンポーネント間やアクチュエータまで安全に、効率よく伝達するための経路です。継手は、コンポーネント同士や配管を接続するために使用されます。
- 配管材: ポリウレタン、ナイロン、ポリエチレンなどの柔軟性や耐久性に優れたチューブが一般的です。ソフトロボットでは、柔軟性が高く、屈曲に強いポリウレタンチューブがよく使われます。必要な圧力に耐えられる肉厚のチューブを選定します。
- 継手: チューブをバルブやアクチュエータに接続するための部品です。プッシュイン継手(ワンタッチ継手)は、チューブを差し込むだけで簡単に接続でき、取り外しも容易なため、試作や実験で広く用いられます。ネジ式の継手は、より確実な接続が必要な場合に使用されます。
配管ルートは、空気漏れがないように適切に設計・接続することが重要です。
5. 空気圧アクチュエータ (Pneumatic Actuator)
空気圧アクチュエータは、圧縮空気のエネルギーを機械的な力や変位に変換する部分であり、ソフトロボットの「筋肉」にあたります。この記事で解説してきた他のコンポーネントは、このアクチュエータを意図通りに動かすためのシステム構成要素です。
ソフトロボットで用いられる空気圧アクチュエータには、PneuNetアクチュエータ、McKibben型人工筋肉、空気圧バルーンなどが含まれます。これらのアクチュエータの設計や特性については、別の記事で詳しく解説します。
システム構築の基礎的な考え方
これらのコンポーネントを組み合わせて空気圧システムを構築する際には、以下のような流れで考えます。
- アクチュエータの仕様確認: 必要な空気圧、流量、接続ポート数などを確認します。
- バルブの選定: アクチュエータの種類(単動/複動など)や制御方法(ON/OFF、方向切り替え)に合わせて、適切なポート数、位置数、駆動方式(電気式など)のバルブを選びます。
- 圧力調整弁の要否判断と選定: 圧力源の圧力とアクチュエータの必要圧力を比較し、レギュレーターが必要であれば選定します。
- 圧力源の選定: システム全体で必要な圧力と流量を供給できる圧力源を選びます。複数のアクチュエータを同時に駆動する場合は、合計流量を考慮する必要があります。
- 配管と継手の選定: 使用する圧力に耐えられ、システム構成に適したチューブ径、材質、継手を選定します。
各コンポーネントの仕様書を確認し、適切に接続することで、基本的な空気圧システムが完成します。最初はシンプルなシステムから始め、徐々に複雑な制御や構成に挑戦していくことが推奨されます。
まとめ
ソフトロボットを動かす空気圧システムは、圧力源、圧力調整弁、方向制御弁、配管、アクチュエータといった主要なコンポーネントから構成されています。それぞれのコンポーネントが持つ役割を理解し、適切に選定・接続することで、ソフトロボットの多様な動作を実現することが可能になります。
これらの基礎知識は、ソフトロボットの研究開発を進める上で非常に有用です。次に、これらのコンポーネントを実際に組み合わせてシステムを構築したり、マイコンなどを用いてバルブをプログラミング制御したりすることに挑戦してみることをお勧めします。具体的なシステム構築方法やプログラミングについては、今後の記事でさらに詳しく解説していく予定です。