ソフトロボット開発ガイド

ソフトロボットを空気圧で動かす:基礎的な構成要素とシステム構築実践

Tags: ソフトロボット, 空気圧, システム構築, アクチュエータ, 制御

はじめに

ソフトロボットの駆動方式には、空気圧、ワイヤ、電気モータ、形状記憶合金、高分子アクチュエータなど様々な種類が存在します。その中でも空気圧駆動は、柔らかい素材で作られたアクチュエータを比較的容易に変形させることができ、シンプルなシステムで大きな力や多様な動きを実現しやすいという利点から、多くのソフトロボット研究開発で採用されています。

これからソフトロボットの研究開発を始めるにあたり、「どのようにロボットを動かせば良いのだろうか」という疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。本記事では、ソフトロボットを空気圧で駆動させるための基本的なシステム構成要素と、それらを組み合わせて実際にアクチュエータを動かすための基礎的な方法について解説します。

空気圧駆動システムの基本構成要素

ソフトロボットの空気圧駆動システムは、大きく分けて以下の要素で構成されます。

  1. 空気源: システムに圧縮空気を供給する装置です。研究室レベルでは、比較的小型のエアコンプレッサーや、ボンベに入った圧縮空気などが利用されます。
  2. 圧力調整器(レギュレータ): 空気源から供給される圧力は高い場合が多く、また変動する可能性があります。レギュレータは、システム全体や特定の部分に供給する空気圧を一定の値に調整するために使用されます。
  3. 方向制御弁(バルブ): アクチュエータへ空気を流す、止める、排気するといった流れの向きを制御する機器です。これにより、アクチュエータの膨張・収縮や、複数のアクチュエータの動作シーケンスを制御します。電気信号で切り替えるソレノイドバルブがよく用いられます。
  4. 配管: 構成要素間を接続し、空気を流すためのチューブやパイプ、そしてそれらを接続するための継手類です。柔軟性や耐圧性などを考慮して選定します。
  5. アクチュエータ: 空気圧によって物理的に変形・動作する部分です。ソフトロボットの場合は、主にエラストマーなどの柔らかい素材で作られたソフトアクチュエータがこれにあたります。
  6. センサ(オプション): システム内の圧力や流量、アクチュエータの変形状態などを計測するために使用されることがあります。例えば、圧力センサを用いることで、アクチュエータにかかっている圧力を把握し、より精密な制御を行うことが可能になります。
  7. 制御器(オプション): バルブへの電気信号のON/OFFや、レギュレータの設定値変更、センサからの情報処理などを行い、システム全体の動作を制御します。マイコン(例: Arduino, Raspberry Pi)などが用いられます。

各構成要素の役割と選定の基礎

基礎的なシステム構築例

ここでは、ソフトアクチュエータを「膨らませて戻す」という最も基本的な動作を実現するためのシステム構築例をいくつか示します。

例1:最低限のON/OFF駆動

最もシンプルな構成です。バルブを手動またはスイッチで操作します。

空気源 → [レギュレータ(任意)] → [3方弁] → アクチュエータ

例2:マイコンによるON/OFF制御

マイコンを用いて3方ソレノイドバルブを電気的にON/OFF制御します。

空気源 → [レギュレータ] → [3方ソレノイドバルブ] → アクチュエータ
             ↑                 ↑
           圧力設定          制御信号 (マイコンから)

例3:圧力フィードバック制御を見据えた構成

アクチュエータにかかる圧力を計測し、その値に応じてバルブを制御します。

空気源 → [レギュレータ] → [3方ソレノイドバルブ] → アクチュエータ
             ↑                 ↑                    ↑
           圧力設定          制御信号 (マイコンから)  圧力センサ
                                                        ↓
                                                      マイコン (A/D入力)

配管・配線の基本的な考え方:

システム構築における注意点

まとめ

本記事では、ソフトロボットを空気圧で駆動させるための基本的なシステム構成要素と、それらを組み合わせた実践的な構築例を紹介しました。空気源、レギュレータ、バルブ、配管、そしてアクチュエータと、必要に応じてセンサ、制御器を組み合わせることで、ソフトロボットを意図通りに動かすための基盤が構築できます。

ここで示したのは最も基礎的なシステム構成です。実際には、より多くの自由度を持つロボットを制御したり、力や変位を精密に制御したりするためには、多数のバルブやセンサを使用し、より高度な制御アルゴリズム(PID制御、シーケンス制御、モデル予測制御など)をマイコン上で実装する必要があります。

まずは、シンプルな構成で実際に空気圧ソフトアクチュエータを動かしてみることから始めてみてください。システム構築を通じて、空気圧の挙動や各要素の特性を理解することが、今後の研究開発において非常に重要になります。次のステップとしては、圧力センサを用いたフィードバック制御の実装や、複数のアクチュエータを協調して動かすための制御プログラム開発などに挑戦されることをお勧めします。