ソフトロボット開発ガイド

初めてのソフトロボット製作:空気圧ソフトアクチュエータの基本的な作り方

Tags: 製作方法, ソフトアクチュエータ, 空気圧, キャスティング, シリコーン, PneuNet

ソフトロボットの研究・開発を始めるにあたり、実際に手を動かして基本的な要素を作製することは、多くの概念や課題を具体的に理解するための有効な手段です。本記事では、ソフトロボットの代表的なアクチュエータの一つである、空気圧によって屈曲動作を行うニューマチックネットワークアクチュエータ(PneuNet)の基本的な製作方法について解説します。

ニューマチックネットワークアクチュエータ(PneuNet)とは

PneuNetは、柔軟な材料でできた内部に空気室(チャネル)が網状(ネットワーク状)に配置された構造を持つアクチュエータです。空気圧を印加すると、空気室が膨張しますが、一方向に伸びにくい拘束層(Constraining Layer)を設けることで、全体として特定の方向(主に拘束層と反対側)に屈曲する動作を実現します。シンプルな構造でありながら、比較的大きな変形能力を持つため、多くのソフトロボット研究で利用されています。

製作に必要な材料とツール

基本的なPneuNetを作製するために必要な材料とツールは以下の通りです。

基本的な製作手順(キャスティング法)

ここでは、最も一般的な製作方法であるキャスティング(注型)法による基本的な手順を解説します。

  1. 型の準備:

    • 製作したいPneuNetの形状に合わせて設計・製作された型を用意します。通常、空気室の形状を形成するコア部分と、外形や拘束層を形成するフレーム部分など、複数の部品から構成されます。
    • 型の内面に剥離剤を薄く均一に塗布します。余分な剥離剤は拭き取ってください。
    • 型を組み立て、隙間がないか確認します。必要に応じてクランプなどで固定します。
  2. シリコーンの計量と混合:

    • 使用するシリコーンの仕様(混合比、硬化時間など)を確認します。
    • 精密はかりを使用して、指定された混合比に従い、A剤とB剤を別々の容器に正確に計量します。
    • 計量したA剤とB剤を一つの容器に入れ、ヘラなどを使って約3〜5分間、均一になるまでしっかりと攪拌します。この際、気泡を巻き込まないように、容器の底や側面の材料も丁寧に混ぜ合わせることが重要です。
  3. 脱泡:

    • 攪拌したシリコーンを真空脱泡機に入れます。
    • 真空ポンプで吸引し、シリコーン中の気泡が膨張して破裂するのを確認します。シリコーンの体積が大きく膨らんだ後、再び収縮し、表面の泡が消えたら脱泡完了です。通常、数分程度で完了します。
    • 真空脱泡機がない場合は、静置して自然脱泡させます。この場合、硬化時間にもよりますが、数時間から一晩程度かかる場合があります。
  4. 型への注型:

    • 脱泡したシリコーンを、準備しておいた型にゆっくりと注ぎ入れます。型に空気が入らないように、型の隅々までシリコーンが行き渡るように注意深く注ぎ込みます。
    • 必要に応じて、型を軽く叩いたり振動させたりして、シリコーン内部に残った微細な気泡を浮き上がらせます。
  5. チューブの設置(必要な場合):

    • 空気圧供給用のチューブを、アクチュエータの空気室につながる部分に設置します。型にチューブを通すためのガイド穴などがある場合は、それを利用します。チューブをシリコーンで固定するために、必要であれば、チューブの周囲にもシリコーンを充填します。
  6. 硬化:

    • シリコーンの種類によって定められた温度と時間で硬化させます。室温硬化タイプであれば、指定された時間(通常数時間〜24時間程度)静置します。オーブンなどで加熱することで硬化を促進できるタイプのシリコーンもありますが、メーカーの指示に従ってください。完全に硬化するまで待つことが重要です。
  7. 型外しと仕上げ:

    • シリコーンが完全に硬化したら、慎重に型から取り外します。無理に引っ張るとアクチュエータが破損する可能性があるため、型の構造を理解し、剥離剤の効果を利用しながら丁寧に行います。
    • 型から取り外したアクチュエータに、バリ(余分なシリコーンの薄い膜)などが付いている場合は、はさみやカッターナイフで注意深く取り除き、形を整えます。
  8. 動作確認:

    • 空気供給チューブを介して、ポンプやシリンジなどで空気をゆっくりと送り込み、意図した通りに屈曲するかどうかを確認します。過度な圧力をかけると破損する可能性があるため、最初は低い圧力で試してください。空気漏れがないかも確認します。

発展的な技術と応用

本記事で紹介したキャスティング法は最も基本的な手法ですが、より複雑な形状や機能を実装するために、積層造形(3Dプリンティング)と組み合わせた手法や、複数の硬度のシリコーンを組み合わせる手法などが研究されています。また、PneuNetを複数組み合わせることで、掴む、歩行するといった多様な動作を実現できます。

まとめ

PneuNetの基本的な製作を通じて、ソフトロボットの材料選定、設計、製造プロセスの一端を体験することができます。この基礎的な経験は、より複雑なソフトロボット構造や、他の種類のアクチュエータ(油圧、電気活性ポリマーなど)の理解にも繋がります。

実際に手を動かすことで見えてくる課題や改良点も多くあります。本記事が、皆様がソフトロボット開発の第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。さらに深く学ぶためには、様々な研究論文やチュートリアル、ワークショップなどの情報を参考にしてください。